Radiologic Case Series

#014 奇静脈葉 Azygos lobe

38歳男性。胸部異常陰影を指摘され,CTが施行された。

胸部単純写真クローズアップ 

右肺門部から右肺尖部に延びる線状影の存在が疑われる。奇静脈葉と考えられる。

 

CT(肺野および縦隔条件)

同じレベルの肺野および縦隔のディスプレイを対にして示した。本来の奇静脈が存在する位置に奇静脈がなく,右肺の内側部を前後に孤を描きながら索状影が走行している。その走行の背部は椎体の右前縁に接しており,全部は右前縦隔と肺野との接合部にある。奇静脈葉azygos lobeと診断される。

解説

奇静脈葉はWrisbergによって1877年に剖検例で初めて記載された。胸部X線写真による最初の記載は1923年にJachesによって行われている。解剖標本では1.0%に,胸部写真では0.4%にみられる。

奇静脈葉は次のようにして形成される。奇静脈の上部となるposterior cardial veinが右肺尖部の上を通って正常の縦隔の内側部へ遊走するときに,本来のコースをとらず,より外側をそのまま下降して壁側胸膜外から臓側胸膜ごと下方に引っ張りこんだものである。その機序としては,奇静脈が本来の位置に移動する以前に心臓が頸部から胸部に下降してくるためとする説と,肺尖部の急速な伸展によって奇静脈が捉え込まれたとする説とがある。いずれの場合でも奇静脈によって肺は壁側胸膜と臓側胸膜ごと押し込まれる。

X線写真,ことに断層撮影では奇静脈裂の上部の肺尖部にはtrigonum parietaleとよばれる小三角形の陰影がみえる。これは壁側胸膜の胸壁からの反転部で少量のareolar tissueを含有している。2枚の壁側胸膜と2枚の臓側胸膜はあたかも腸間膜のような構造を形成するのでmesoazygosとよばれ,azygos veinの"hammock"を含む。

奇静脈葉のサイズはさまざまである。ここに分布する解剖学的に規定された構造はなく,S1やS2の亜区域レベルの気管支と肺動脈の分枝が分布している。奇静脈が上大静脈に注ぐ代わりに右腕頭静脈に注ぐこともある。

左”奇静脈”葉 (left "azygos" lobe) がときにみられる。これは,内蔵逆位症を除けば,半奇静脈葉 (hemiazygos lobe)というべきであろう。副半奇静脈の位置異常によって形成され,aortic knobから左肺尖に伸びる線状影が認められる。

奇静脈は臥位および呼気で大きくなり,立位および吸気で小さくなる。したがって臥位では,奇静脈は気管分岐部と上葉気管支の分岐する”また” ("crotch")の部分に円形あるいは楕円形の陰影としてみとめられる。よって,奇静脈葉が疑われる場合には,本来あるべきcrotchがみえず(empty crotch sign),外側に奇静脈があることを確認すればよい。

  

文献

1) Felson B. The azygos lobe: its variation in health and disease. Semin Roentgenol 1989;24:56-66.